スポンサードリンク

2025-07-04

昭和歌謡界隈の歩き方 齋藤孝著 白水社 2025年刊

「人生を豊かにする名曲とその味わい」というサブタイトルが内容をよく示している。

「昭和歌謡」と題されているが「昭和の歌謡曲」の話題ではない。「昭和に流行った歌」という意味の「昭和歌謡」だと思われる。

分厚い本なのだが著者の年代とややかぶる年代なので知っている曲が多く一気に読んでしまった。

話題として取り上げられるのは映画やテレビドラマのテーマもあるので「この時代に注目を浴びた歌について記した本」と言えそうだ。

どうやら著者は昭和歌謡の大きなコレクションを持っていて日常的にそれを聞いているようだ。そのように聴き込んだ曲についてその特徴を記していく。

同時代の人はもちろん、それより若い世代にとってもこの時代の歌について知ることのできる本だ。

聴き慣れた曲が多いのだが著者の解説を読むと「また聞き直してみようか」と思うことが多かった。そういう意味ではガイド本とも言えそうだ。

巻末の「1959〜1988昭和歌謡年史」の一覧表は見ているだけでその頃にタイムスリップしたような気分になる。楽しくて有益な本だ。

2025-05-07

遊牧王朝興亡史:モンゴル高原の5000年(講談社選書メチエ) 白石典之著 講談社 2025年刊

副署名の「モンゴル高原の5000年」が内容をよく示している。

書名からはわからないが考古学での知見を基にした歴史記述だ。主に墓の発掘・調査の話題が出てくる。墓の話だけでもどの様な人が葬られているのかから始まって時代背景などにも話は及んでいく。そのプロセスが魅力的だ。

年代の測定法には色々なやり方があり、その時の状況にあったやり方を採用するのだというのも興味深い。

現地の状況に通じて過去のことに及ぶので著者の指摘の一つ一つに重みがある。読んでいて興奮すら覚えた。

もちろん考古学を主体にしているのでその場所を舞台として活動していた人が躍動するわけではない。しかしその分「何が起きていたのか」はよく伝わってくる様にも思えた。

なかなか刺激に満ちた本だ。著者の別の著作も読んでみたいと思った。

2025-04-06

女の氏名誕生:人名へのこだわりはいかにして生まれたのか 尾脇秀和著 筑摩書房 ちくま新書1818 2024年刊

『氏名の誕生――江戸時代の名前はなぜ消えたのか』の姉妹編だ。

著者は「あとがき」に「現在男女を問わず、私たちが抱く氏名への愛着はどんな歴史を負っているのかー。本書はそれらの歴史的事実を整理して、一通りの概要を示したつもりである。」と記している。

女性の名前は男性の名前とは違った性格を持ち、その歩みも違っていた、ということが柱の一つとなっている。

もう一つ大事なことは名前が明治以後、そして第二次大戦後と二度にわたって大きな変化を遂げていったことが説明されている。

そして大戦後の状況がまた変化してきていることが述べられている。

現在の状況はどうやらこれまでの流れとは全く異質なことになり、前代の状況へいわば誤解に基づいていることが明らかにされている。

この現代の状況がコンピュータによる情報処理に深く関わっていることが示され、これは氏名以外にも漢字への考え方、接し方が変わってきていることも示されている。

ある意味、政府からの強引な変革が混乱をもたらしたとも言えそうだ、と感じた。

氏名についてはもちろんだが漢字についても使い方が変化してきていることが明らかにされている。

「氏名」から漢字や名前への考え方の変遷を描き出しているユニークな著作だ。

2025-01-24

焼き芋とドーナツ:日米シスターフッド交流秘史 湯澤規子著 KADOKAWA 2023年刊

食べ物が書名になっているが食べ物の本ではない。

紡績工場や織物工場に働く女性たちにまず焦点を当て彼女たちがどのように生きていたのかを記す。それから近代、現代の女性たちがどのように生きていたのかを記していく。

論点は多岐にわたるが女性たちが「わたし」を失っていたのではないか、という観点からその当時の女性たちの姿に迫っていく著作だ。

日米で自立して活動する女性たちの姿が記されており、個々の事例が印象的なのでそれに目を奪われがちだが著者が目指しているのはそれだけではない。「女性は自立した存在なのだ」という問題意識が根底にありそれの論証の本である。

そういう意味から言うとこの本は「エピローグ」から読み始めるのもよさそうだ。著者の意図はここに凝縮されているからだ。

わかりやすい書き方なので学術書であることを忘れさせる本でもある。

2024-11-27

胃袋の近代:食と人びとの日常史 湯澤規子著 名古屋大学出版会 2018年刊

「食べること」を土台に置いて近代の色々な人々の有り様を描いた本だ。

食べること自体が色々な背景や意味を持つことがこの本を読んでいくとわかってくる。それは貧困の問題を扱っているようで実はそれ以上の人間が等しく持っている「食べること」を誰しもにも充足させることがいかに困難であるか、を気づかせてもくれる。

だからといって著者はいきり立ってはいない。その困難さを直視し、またその困難さに対して何らかの行動を起こした人の事を資料の中から描き出している。

身近なことが大きな問題に気づく機会であることを示しているばかりでなく、個々人が意識しないで大きな流れの中に存在し眼前の課題にどの様に対処していったかをも示している。

「すぐそばにある歴史学」を実感させてくれた労作だった。

2024-11-18

西郷従道 小川原正道著 中央公論新社 中公新書2816 2024年刊

「首相対暴論があったが固辞し続けた」というキャッチコピーがあったのでどんな人なのかと思い読んでみた。

西郷隆盛の弟なのだが隆盛の死後も政府の大臣や軍の指導者を務めている。その割に有名でないのが興味を引いたので読んでみた。

読んでみて著者は「首相にはならなかった」とは書いているが「「固辞した」とは書いていないようだった。この点は肩透かしをされたような感じがする。

長く政府の要人として過ごしたのだが、その理由についてはほんの最後の方でサラリを触れているだけなのでうっかりすると見過ごしてしまいそうだ。

従道の経歴については丁寧に記されているので力量のある人だというのはよくわかるが「なぜ重要されたのか」についても本の最後の方で少しだけ触れている。まぁ「偉大な人だ」と売り込むよりはいいのだが。

そもそもが従道が表面に目立たない形で活動していたので書きにくいのかもしれないが彼の行ったことは明治政府を軌道に乗せヨーロッパ諸国に伍していけるように筋道を立てていくことだった。この点に焦点を当てた従道論の本をぜひ読んでみたいと思っている。

2024-08-02

土俵の真実 杉山邦博の伝えた大相撲半世紀 杉山邦博、小林照幸著 2008年 文藝春秋刊

一定年齢以上になるのだろうが相撲の中継を見たり聞いたりした人なら誰でも聞いたことのある杉山邦博氏の著書だ。

この本を読むまで「杉山氏は相撲の中継をするより競馬の中継をする方がもっと良かったのでは」と思っていた。しかしこの著書によると杉山氏は相撲中継をしたくてアナウンサーになったのだそうだ。「競馬の方が、、、」と感じていたのはやや違っていたのだと思った。

杉山氏の中継は華麗なものだった。その杉山氏が「抑制の美学」を推奨しているので大分戸惑った。まぁ、こういうものなのだろう。

力士を中心にして相撲界のあれこれを記しているので「なるほど」と思うことが多い本だ。杉山氏の記していることを同時並行で知っているものにとっては感心したり「そうだったのか」とびっくりしたりと、それなりにスリリングな本であるのは確かだ。

そしてこの本が杉山氏の独りよがりになっていないのは小林照幸氏が別の角度から相撲について記しているからだ。

特に二人の書き方を合わせたというわけではないのだろうが、時には共鳴し、時にそれぞれの見方が並列されている。なかなかスリリングな感じがある。

かなりコアな相撲好きにとっても面白く読める本だと思う。良い本に出会えたという感じがしている。