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2022-12-24

フルベッキ伝 井上篤夫著 国書刊行会 2022年刊

「お雇い外国人」として有名なフルベッキの伝記は初めてかもしれない。有名なわりにはどう言う人だったのかよく分からなでいたが、この本でやっとわかってきた。 

 元々はオランダ出身なのだがドイツ系でもあったのでオランダ語、ドイツ語ができ、オランダ育ちなので英語もできた人だった。そう言う人だったので日本語も不自由なく使えたので日本で大きな仕事ができたとわかった。

岩倉使節団の出発にあたって、どのように行動していくのか細かな提案をしたのであれだけの成果があがったのだという。そう言う意味では洞察力のある人だったようだ。

元々は宣教師でキリスト教普及のために日本に来たのだが、それ以外のことで有名になってしまった、と言うことかもしれない。

フルベッキの祖先から始まって、フルベッキ自身のことについて丁寧に記している。詳細な注もあって著者の意気込みが伝わってくるようだ。

記述の中には残念なことに細かな部分での分かりにくさや勘違いも散見したが、これは瑕疵と言うべきでこの本の価値を落とすほどのものではないと思う。

フルベッキの子孫は現在でも健在であるという。嬉しい情報だ。

2022-12-18

暴走する日本軍兵士 ダニ・オルバフ著 長尾莉紗、杉田真訳 朝日新聞出版 2019年刊

副署名の『帝国を崩壊させた明治維新の「バグ」』の方が署名としては相応しいような気がする。原題は『Couse on this country』で、この書名でもよかった気がする。

というのは書名の「兵士」がどうやら兵隊ではなく士官のことを指しているからだ。これは原著にそうなっているのか不明だがちょっと混乱させられた。

その他にも日本史についての不正確な記述があったりするが、これが著者のせいなのか訳者のせいなのかはわからない。

それはともかく「明治維新のバグ」という考え方はなるほど、と思った。要は軍人が暴走したのは明治維新そのものの欠陥に由来するという考え方を提示していることになる。刺激的な考え方で新しい視点と思われた。もっとも「新しい」というのはこちらが知らないだなのかもしれないが。そういえば軍事史からの見地というのも珍しいかもしれない。

ところで「軍人の暴走」とは言っても実際は陸軍しか扱っていない。これは海軍にはそういうことがなかったからなのか、陸軍だけを例にして話をわかりやすくしたのかは不明だ。明治以降の歴史を扱う場合海軍の影が薄いのはいつものことなのだが不思議なことだと思っている。ということはこの本のテーマとは離れていることだ。

分厚い本なのでちょっと読みづらい感じを与えるが読みやすい本なので気にはならない。なぜ陸軍が暴走したのかに関心があるならば手にとってみる価値はある。

日本の歴史に詳しい人から見ると疑問の出る記述もあるが、そこに注目するのではなく著者の主張に目を向けて読む方が良さそうだ。

なお政治学からの書評がある。合わせて読んで欲しい。

2022-12-10

幕府海軍の興亡 金澤裕之著 慶應義塾大学出版会 2017年5月刊

幕府海軍の歴史を扱っている。視点は日本史というより軍事史からの研究だ。これまで幕府海軍について触れている著書は多数あるが、みな日本史からの視点であったように思う。

この本はそれらと違い、軍事史の観点から幕府海軍の動向を描いている。近代の軍事史からみた場合、船手(水軍)と海軍には大きな差異があるようだ。この本はその点に先ず着目し近代の海軍とそれ以前の海上勢力との違いを明確に意識して論じている。

ここまで省略すると間違いを含むのだろうが、近代以前の水軍と近代の海軍との違いは物資、人員の輸送も主な使命とするか否かであろうか。水軍の場合は平時には物資輸送を行なって収益を上げ、戦時には戦闘に参加する。近代海軍は純然とした軍事力なので、輸送による収益は任務とならない。この海軍がいかに日本に根付いていったか、を後づけている。

まだ徳川幕府が健在の頃の海軍論は、海軍論とは言ってもその中身は日本に以前からあった水軍の考え方の延長にあった。そのため運送も使命とする考えがあり、それを行うことによって海軍を根付かせようという動きもあった。

実際にオランダによる海軍伝習が終わった後からは、徐々に水軍(船手と呼ばれていた)が姿を消していっている。最終的には、幕末のギリギリになって幕府の海軍はヨーロッパ式の海軍の様相を帯びるのだが、その時には幕府海軍は終わりを告げてしまう。その経緯を描き出している著作とも言える。

従来の日本史からの海軍研究とは違う視点で軍事力としての海軍を中心に据えた意欲的な研究書である。分厚だが読みやすい著作だった。

当然のことだが、充実した参考文献リストもこの図書の魅力の一つだ。