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2023-12-19

「忠臣蔵」の決算書 山本博文著 新潮社 新潮新書 495 2012年刊

現在は「忠臣蔵」にあまり関心があるわけではないが「軍資金の話」というので読んでみた。

内容は事件の経過についてはよく知られていることなのであまり筆を費やしていない。やはり決算書の分析が中心となっている。

軍資金の元となったものをまず記しそれをどのように使っていったのかを決算書に沿って記していく。そのため仲間との連絡をどのように取っていたのか、どのように討ち入りに向けて行動していったのかが具体的にはっきりとなっていく。

討ち入りが成功していることを知っていると、それに向けての準備が順調に進んだように思いがちだが実際はそうではなく様々な意見の相違があり、最終的に討ち入りに持っていったのは大石の手腕も大きいと著者は指摘している。

軍資金を中心として書かれたものはこれまでないような気がしている。そういう点は貴重な本だ。

もちろん、討ち入りの様子や同時代の討ち入りへの評価についても目配りしている。一方的に誉めそやしていない点はさすがと思った。

また討ち入り後の関係者の動向についても記されておりこの行動がどのようにその時代に受け止められていたかも実感できる。

ユニークな忠臣蔵関係著作だ。

2023-12-08

鉄砲を手放さなかった百姓たち 武井弘一著 朝日選書868 朝日新聞出版 2010年刊

なんだか物騒な書名だが江戸時代の農民たちが鉄砲を必要としていたことを記している本だ。そういう点では内容をよく表した署名なのだ。

著者は農村にある鉄砲を「農具としての鉄砲」と定義しその利用がなぜ必要だったのかを綿密な調査に基づいて記している。そのため単なる鉄砲の話というよりも江戸時代の開発のあり方、それの人間への、また動物への影響を記している。さらに言えば農民たちは仕留めた鹿や猪を食用にしていることから肉食が江戸時代にあったことを示している。

鉄砲から始まって著者の筆は江戸時代の農村のこれまであまり注目されていなかった面を解き明かしていく。地味な対象ではあるがなかなか刺激的な著作となっている。

「獣害」というものが江戸時代から起こっていて現代でも続いている。人間と自然との付き合い方はなかなか難しいことなのだ、そういうことにも気づかせてくれる本と言える。

2023-12-05

山岡鉄舟・高橋泥舟 岩下哲典著 ミネルヴァ日本評伝選 2023年刊

「幕末の三舟」とよく言われる三人のうちの二人の評伝だ。

この二人は鉄舟は剣術、泥舟は槍術で名人と言われたことで共通している。またこの二人は鉄舟が泥舟の実家を継いでいることから兄弟関係になっているという共通点もある。

幕臣として有能であり、二人して上野に謹慎した慶喜を警護したことでも共通点がある。無理に比較するならば明治以降は鉄舟の方が有名であったことに違いがある。もう一人の舟は勝海舟である。

この三人は並べられてはいるが号に舟がある以外はあまり似ていない。海舟は政治家であり、鉄舟・泥舟はどちらかというと武人である。まぁ幕末に相互に連絡もあったということで三舟になったのかもしれない。

三人の共通点は「徳川家に忠実だった」ということかもしれないが、これは幕臣に共通していることなのであえていう必要はないかもしれない。

泥舟が明治以降は全く表面に出ず在野で終わっている。鉄舟は宮内省に関係して明治天皇の養育係となっているので明治になっても新政府に関係している。その点は海舟と同様だ。海舟との違いは明治政府に関係しても非難されていないことだろう。もっとも政治に関係したわけではないので非難される謂れはないのかもしれない。その点は政治家ではなかったことが影響していよう。

鉄舟、泥舟ともに資料が豊富とは言えないない。しかし日記や書簡はあるので著者はそれらを丁寧に読み解いて二人の歩みを記している。

著者の鉄舟と泥舟をわかって欲しいという思いからか引用する資料はほとんどが現代語訳になっている。原文でないのが残念と言えば言えるがその分読みやすくなっていて描かれている二人の人柄に迫っていけるようになっているのはありがたいとも言える。

もちろん参考文献が充実しているので直接元に当たりたければそちらを参照することができる。その点では行き届いた本である。

明治という時代に旧幕臣がどのように生きていたのかはあまり焦点が当たらないでいる。明治になってある意味で対照的な生き方をした二人についての客観的な記述の多い著作が出たのは明治期を考える上で大事なことだと思う。