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2023-06-28

将軍の世紀 上下 山内昌之著 文藝春秋 2023年刊

大部の本だ。上巻735ページ、下巻760ページある。しかも小さめの字で上下二段組みになっている。文藝春秋の刊行なので専門書とは言えないようにも思うが内容は濃い。

特色はイスラム地域の歴史専攻の著者が日本史に挑んだことだろうか。そのため 叙述の中にイスラム地域のエピソードが出て来たりして日本史専門の人が書くのとはまた違った味わいがある。

内容は徳川家の歴代将軍を順番に取り上げて将軍の在位期間中の事績をしるしていくものだ。そのため江戸時代の通史となっている。

一口に「歴代将軍」と言っても在位期間の長い人ばかりではないし書くことが少ない人もいる。それがひとり分の分量の差となっている。

用語の特徴としては著者は「幕府」という言葉を極力使わないようにしている。当時の言葉を使う方針なのだ。これで改めて「幕府」という語は歴史学の用語なのだということを再確認した。著者の見識がこういう所に現れている。

日本史としてはやや異色だが色々な刺激に満ちた著作だ。

2023-06-25

「おかえり」と言える、その日まで 中村富士美著 新潮社 2023年刊

総合病院の救急救命センターで看護師をしていた著者は身近な山で怪我をして運ばれてくる人が多いのを不思議に思っていた。危険でないはずの山でなぜ怪我をするのかが疑問であった著者は実際に山に入ってみて小さなきっかけから遭難が起こることを知り、山岳遭難捜索に関わっていくようになっていった。その経験のレポートである。

副署名の「山岳遭難捜索の現場から」が内容をよく示している。山で行方不明になった人を捜索する仕事をしている人の記録だ。山での遭難については色々の見方があるが捜索現場にいる著者の視点は温かい。それは遭難者自身に対しても、また遭難者の家族に対してもそうだ。

連絡係として遭難者の家族と共に時間を過ごすことのある著者はおそらく厳しい体験もしているはずだが、その辺りはさらりと書いている。遭難の原因は一つではない。色々な条件のうちに遭難者の考え方や性格を含めていってどのような行動をするのか、も捜索の条件として探っていく。その経緯には感心させられた。

何よりも遭難者を「おかえり」と迎える姿勢が素晴らしい。そして家族が遭難者の死を受け入れていくまでも細やかに記している。いくらでもドラマチックに書けるテーマを著者は淡々を記している。それでいて配慮に満ち、控えめな記述が温かな読後感をもたらしている。得難い本だ。