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2022-12-24
フルベッキ伝 井上篤夫著 国書刊行会 2022年刊
2022-12-18
暴走する日本軍兵士 ダニ・オルバフ著 長尾莉紗、杉田真訳 朝日新聞出版 2019年刊
副署名の『帝国を崩壊させた明治維新の「バグ」』の方が署名としては相応しいような気がする。原題は『Couse on this country』で、この書名でもよかった気がする。
というのは書名の「兵士」がどうやら兵隊ではなく士官のことを指しているからだ。これは原著にそうなっているのか不明だがちょっと混乱させられた。
その他にも日本史についての不正確な記述があったりするが、これが著者のせいなのか訳者のせいなのかはわからない。
それはともかく「明治維新のバグ」という考え方はなるほど、と思った。要は軍人が暴走したのは明治維新そのものの欠陥に由来するという考え方を提示していることになる。刺激的な考え方で新しい視点と思われた。もっとも「新しい」というのはこちらが知らないだなのかもしれないが。そういえば軍事史からの見地というのも珍しいかもしれない。
ところで「軍人の暴走」とは言っても実際は陸軍しか扱っていない。これは海軍にはそういうことがなかったからなのか、陸軍だけを例にして話をわかりやすくしたのかは不明だ。明治以降の歴史を扱う場合海軍の影が薄いのはいつものことなのだが不思議なことだと思っている。ということはこの本のテーマとは離れていることだ。
分厚い本なのでちょっと読みづらい感じを与えるが読みやすい本なので気にはならない。なぜ陸軍が暴走したのかに関心があるならば手にとってみる価値はある。
日本の歴史に詳しい人から見ると疑問の出る記述もあるが、そこに注目するのではなく著者の主張に目を向けて読む方が良さそうだ。なお政治学からの書評がある。合わせて読んで欲しい。
2022-12-10
幕府海軍の興亡 金澤裕之著 慶應義塾大学出版会 2017年5月刊
幕府海軍の歴史を扱っている。視点は日本史というより軍事史からの研究だ。これまで幕府海軍について触れている著書は多数あるが、みな日本史からの視点であったように思う。
この本はそれらと違い、軍事史の観点から幕府海軍の動向を描いている。近代の軍事史からみた場合、船手(水軍)と海軍には大きな差異があるようだ。この本はその点に先ず着目し近代の海軍とそれ以前の海上勢力との違いを明確に意識して論じている。
ここまで省略すると間違いを含むのだろうが、近代以前の水軍と近代の海軍との違いは物資、人員の輸送も主な使命とするか否かであろうか。水軍の場合は平時には物資輸送を行なって収益を上げ、戦時には戦闘に参加する。近代海軍は純然とした軍事力なので、輸送による収益は任務とならない。この海軍がいかに日本に根付いていったか、を後づけている。
まだ徳川幕府が健在の頃の海軍論は、海軍論とは言ってもその中身は日本に以前からあった水軍の考え方の延長にあった。そのため運送も使命とする考えがあり、それを行うことによって海軍を根付かせようという動きもあった。
実際にオランダによる海軍伝習が終わった後からは、徐々に水軍(船手と呼ばれていた)が姿を消していっている。最終的には、幕末のギリギリになって幕府の海軍はヨーロッパ式の海軍の様相を帯びるのだが、その時には幕府海軍は終わりを告げてしまう。その経緯を描き出している著作とも言える。
従来の日本史からの海軍研究とは違う視点で軍事力としての海軍を中心に据えた意欲的な研究書である。分厚だが読みやすい著作だった。
当然のことだが、充実した参考文献リストもこの図書の魅力の一つだ。
2022-10-30
大久保利通: 「知」を結ぶ指導者 (新潮選書) 2022年刊
大久保利通についてのまとまった本を初めて読んだ。「独裁者」として語られることの多い大久保利通のそれとは違った像を描いている。
大久保は「義」と「理」を重視し、正しいことか、十分に筋道が立っているかを重視し、決めた後はぶれないで実行していった人としている。実行型の政治家といえようか。それも、自身で実行するのではなく、その環境を作って然るべき人に実行させるやり方だ。自身の功業を求める人には無いやり方のように思えた。
大久保自身の書き残したものを中心に同時代資料を丹念に読み込んでの著作だ。原資料を現代文に直しているのは読者への便宜を図ったものと思われるが、注によって原文参照が必要になるのでやや煩わしいと思う時もあった。
丹念な注と詳細だがわかりやすい年表がついているので、大久保の足跡がよりわかりやすくなっている。そういう意味では丁寧に作られた本とも言える。
分厚い本ではあるが、著者の文章がわかりやすいので一気に読み進んだような印象がある。
2022-10-17
聯合艦隊 木村 聡著 中公選書127 中央公論新社 2022年5月刊
書名の通り聯合艦隊についての本だ。来歴は著者の博士論文を一般向けに書き直したものだ。その分本格的な研究の様子を知ることができる。
著者は聯合艦隊を海軍内の組織として検討し、臨時的な艦隊が常置になりどのように組織として動いていったのかを検討している。そのため書名から連想されるような戦史ではない。
海軍内でどのような存在であったのか、どのように大きな存在となって行ったのかを跡付けていてその点がユニークだ。これまでこのような視点の研究があったのかは分からないが、新鮮な感じを受ける。
新鮮といえば、著者は日本海海戦を対馬沖海戦と呼んでいる。国際的にはこの呼び名なので好もしく思えた。
粗探しではないが、戦艦扶桑、山城を著者は「航空戦艦」と記している。航空戦艦になったのは両艦の改良型である伊勢、日向なのでちょっと気になった。おそらく博士論文にもこのように記されているのだろう。著者の論旨に影響するようなことではない瑣末なことだが、残念だ。
この著書は著者のこれまでの研究の成果である。この先この研究をどのように深めていくのか注目して行きたい。
2022-10-07
エドゥアルト・ファン・ベイヌム:モーツァルト:交響曲&協奏曲集
ベイヌムのモーツァルトアルバムがあったので買ってみた。 内容は次のようだ。
Mozart: Symphonies & Concertos
指揮 エドゥアルト・ファン・ベイヌム
・モーツァルト:フルート、ハープと管弦楽のための協奏曲 ハ長調 K.299 フーベルト・バルワーザー(フルート) フィア・ベルクハウト(ハープ) ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 ・モーツァルト:交響曲 第29番 イ長調 K.201 ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 ・モーツァルト:交響曲 第33番 変ロ長調 K.319 ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 ・モーツァルト:交響曲第 35番 ニ長調 K.385《ハフナー》 ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団 ・モーツァルト:ピアノ協奏曲 第24番 ハ短調 K.491 キャスリーン・ロング(ピアノ) ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団 ・クラリネットと管弦楽のための協奏曲イ長調 K.622 ブラム・デ・ウィルデ(クラリネット) ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団
1950年代のコンセルトヘボウのトップ奏者がソロを務めているようだ。当時のコンセルトヘボウの名人芸が聞けるのも嬉しい。
ちょっと意外なアルバムとも思える。ベイヌムはブラームスやブルックナーの演奏が有名だからだ。しかし端正な中にも味わいのある演奏が聞ける。大事に聞いていきたい。
残念なのは早く亡くなったためにステレオ録音が少ないことだろうか。まぁモノラルでも十分にその力量はわかるのだが。
2022-04-15
日本レスリングの物語 増補版 柳澤 健著 岩波現代文庫 社会326 岩波書店 2021年刊
出版社の案内はここにある。 日本のレスリングの歩みを八田一朗を起源として記している。
八田一朗が始めた小さな動きがだんだん大きくなって行く過程が膨大な資料と取材によって丁寧に跡づけられているのには感心させられた。
この本の本領は、しかしそこにはない。著者はオリンピックで華やかな話題となるレスリングが、実は学校の中だけに生存していることに疑問を持ちつつこの本を書いたようだ。
最後の方になって、競技人口が広がらない理由はレスリングが社会人のスポーツになっていないからで、これからは軍隊式の学校体育を脱却するべきだとして学校外のレスリングクラブの誕生の意義について筆を費やする。
レスリングという競技の問題点を指摘する筆はそれにとどまらずレスリング指導者の持つ問題点にまで及んでいる。そうであってもレスリングに注ぐ著者の視線は暖かい。
分厚いが一気に読み進められる素晴らしい本だ。
2022-04-06
相撲 高埜利彦著 日本の伝統文化シリーズ4 山川出版社 2022年刊
出版社の案内はここにある。
著者は近世史の専門家だ。歴史家が相撲の本を出すのは珍しい。専門家が書いた一般書という位置づけとなる。そのためやや書きにくかったのかなという雰囲気が感じられる。
この本の特徴は歴史研究者が歴史学の手法を用いて書いた相撲の歴史の本ということにつきる。それよりは著者の専門である近世という時代の中に相撲を行う人々を位置づけ、そのありかたを記している。そのため相撲の歴史を書いた本によくある大げさな権威付けをしたり代表的力士や名勝負を列挙するようなことはしていない。そのためそういう記述を期待すると内容にがっかりするかもしれない。それでも著者の相撲好きが伝わってくる記述はあり、ほほえましい。
江戸時代において相撲関係者がどのような意図を持って動いていたのかに関心のある人にとっては好適な本となるはずだ。相撲の歴史的研究を志す人にもスタート地点となり得る本だ。
一般書と言いながら参考文献リストが充実している。このリストを見ていると相撲資料の在り方、研究者の関心の在り方が見えてくるようだ。
この本の出版を契機に相撲史研究の機運が高まっていったらいいな、そんなことを考えた。
2022-04-01
SONY ICF-B99
災害ラジオを入手した。SONYのICF-B99だ。これまでラジオは1996年発売の年代ものSONYのICF-SW10を使っていた。受信できるし音もまずまずで満足していたのだが2022年3月22日の電力不足予報があってからちょっと考えが変わった。
東日本大震災の頃に買った災害ラジオを引っ張り出して確認したところ音は出たし手回し充電もできた。しかしケーブルが見当たらなかったのでスマートフォンへの充電はできなかった。これでは停電対策として不十分だ。
そこでネットで「災害ラジオ」を探すと出てくるのは目立つ色の機種ばかりだった。そこで近所の家電量販店に行って見てみたら落ち着いた色の機種を置いていた。メーカーはSONYとPANASONICだった。どちらも短波ラジオを使っていた頃からの馴染みのメーカーだ。
機能はほとんど同じなのだが、大きく違っていたのはSONYのラジオは太陽光充電ができた。太陽光充電は天候に左右されるのだが、充電の選択肢が増えるのはいいことだと思ってこの機種にした。
普段使いのラジオにもしようと思っていたので、音質がどうなのかを気にしていたのだが実際に使ってみるとなかなか聞きやすい音で長時間聞いても疲れない。スピーカーの大きさからレンジの広い音を望むのは無理なので、これで十分だ。感度は十分なのだが、あえて前に買った名刺サイズのSRF-T355との違いを言うならば、同じ部屋で受信した場合、ラジオ日本が聞けるか否かの点だ。この局は以前ラジオ関東と言っていて、受信しにくいので有名だったことがある。その点は今も変わらないようだ。改めてふたつのラジオで比較してみるとSRF-T355ではAM、FM共に聞けたがICF-B99ではAMしか聞けなかったのだ。まぁ、現段階ではとにかく聞けるのだから大した違いはないと言える。
両者の使い分けは室内で聞くか屋外で聞くか、ということになりそうだ。ICF-B99を聞くのはやはり室内用だろう。SRF-T355は出かけた時にとなる。
ICF-B99の使いやすい点の一つに安定性がある。底面の面積が広く上に向かって狭くなっているので倒れにくい。これは便利だ。チューニングもやりやすい。落ち着いた色も気に入っている。あとは災害用ラジオとして機能しないことを願うだけだ。
2022-02-25
剣術修行の旅日記 永井義男著 朝日選書906 朝日新聞出版 2013年刊
佐賀藩の武士牟田文之助が1853年9月から1855年9月まで剣術修行でほぼ2年間にわたって全国を旅した日記を元にした本だ。
丁寧な作りになっていて、巻頭には巡った土地の一覧表が、さらに終わりの方には他流試合のした道場の一覧が掲載されている。この二つの表を見るだけでもどこに行ってどのように他流試合をしたのかがわかるようになっている。
この本を読んでいてわかったのは、江戸時代においていつの頃からか剣術修行のためのやり方が整備され、剣術修行のための宿屋に泊まると、費用はその土地の藩が負担し、剣術道場への試合の申し込みは宿が手配してくれるようになっていたことだ。武士には剣術修行が必要だから、というので整備されたのだろう。この方法の起源とか定着する経緯が気になったが、もちろん、そのことについての記述はない。研究した人がいれば読んでみたいと思った。
剣術修行は、おそらくそれほど年代の違わない武士が回るので、これを契機に途中で友人を作ったりして交流のネットワークが作られていくことが示されている。武士たちの交流圏が意外と広いことがわかる。
また、どこに行っても酒宴を行っているので、そこにだけ注目すると物見遊山の旅かと勘違いしてしまいそうだ。
当時の旅の実態も仄見え、なかなか読みやすい本になっている。
この本が使った『諸国廻歴日録』は『随筆百花苑』第13巻に収められているので原文で読むこともできる。
2022-02-14
関取になれなかった男たち 佐々木一郎著 ベースボール・マガジン社刊 2022年
この本の紹介はここ にある。
登場するのは幕下筆頭まで昇った
- 春日国(かすがくに)
- 獅子王(ししおう)
- 友鵬(ゆうほう)
- 錦風(にしきかぜ)
- 緑富士(みどりふじ)
- 小金富士(こがねふじ)
の6人だ。関取まであとちょっと、と迫った人たちとも言える。
このうち友鵬だけが故人だ。
何よりも、著者の力士への温かい視線が嬉しい。 そして力んでいない書き方が元力士たちの人間像を浮かびあが らせている。もちろん、それぞれの力士の関係者にも丁寧に 取材している。
登場する6人は皆熱心に相撲に取り組んだのに関取の地位まで 上がれなかった人たちだ。著者はその原因に直接触れるより はそういう経験の後にどのように人生を送っていったかに注目 している。
中には、「関取になっていたらこの人と結婚していなかったか もしれない」という女性もいて、関取になれなかったことが必 ずしも残念なことではないのだ、と著者は言いたかったのかも しれない。
6人とも相撲界にいたことが何かしらの形でその後に生かされ ていることを伝えているのもよかった。全部読み終わると、 それぞれの力士には上がれなかった理由があったのだと何とな く気づくようになっていたのも嬉しい心遣いだった。
心温まる本だった。