総合病院の救急救命センターで看護師をしていた著者は身近な山で怪我をして運ばれてくる人が多いのを不思議に思っていた。危険でないはずの山でなぜ怪我をするのかが疑問であった著者は実際に山に入ってみて小さなきっかけから遭難が起こることを知り、山岳遭難捜索に関わっていくようになっていった。その経験のレポートである。
副署名の「山岳遭難捜索の現場から」が内容をよく示している。山で行方不明になった人を捜索する仕事をしている人の記録だ。山での遭難については色々の見方があるが捜索現場にいる著者の視点は温かい。それは遭難者自身に対しても、また遭難者の家族に対してもそうだ。
連絡係として遭難者の家族と共に時間を過ごすことのある著者はおそらく厳しい体験もしているはずだが、その辺りはさらりと書いている。遭難の原因は一つではない。色々な条件のうちに遭難者の考え方や性格を含めていってどのような行動をするのか、も捜索の条件として探っていく。その経緯には感心させられた。
何よりも遭難者を「おかえり」と迎える姿勢が素晴らしい。そして家族が遭難者の死を受け入れていくまでも細やかに記している。いくらでもドラマチックに書けるテーマを著者は淡々を記している。それでいて配慮に満ち、控えめな記述が温かな読後感をもたらしている。得難い本だ。
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