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2024-05-07

死の貝 小林照幸著 文芸春秋 1998年刊

書名からはわからないが日本住血吸虫症を克服するための100年以上にも亘る対策の歩みを記している。

日本では現在この病気は起きていないようであるが以前は原因不明の病気としてその発生地においては恐れられていた。

血管に棲みつく寄生虫が原因で栄養不良になるのが見つかってから病気を抑え込むまでの関係者の苦闘ぶりが綿密な取材に基づいて紹介されていく。

この寄生虫は中間宿主の中で大きくなっていく性質があるため中間宿主を排除することによって罹患率を下げていくことができたのだが、その中間宿主の特定がまた難問であった。

これらの難問を少しづつ解明して行くことが本書のテーマなのだが著者の視点は日本国内だけに留まってはいない。同じ病気は中国揚子江流域やフィリピンにも存在していた。これらの地域の状況や対策についても筆が及んでいる。

下手をすると事態打開にあたった関係者の顕彰に終わってしまう内容なのだがこの本はそうなっていない。病気にかかった人の思いを伝えることも忘れてはいない。

医学や生物学の知識が必要な本ではあるが著者の説明が丁寧なのでわかりにくさはない。大きな声を出している著作ではないが感動的でもあった。

この病気の対策が中間宿主の減少が主眼となっていた。特定の生物の絶滅策の話といえば言える。しかしそういう話にはなっていない。著者は患者がいなくなったことを述べ中間宿主の生物についてはその数が減少したことだけを触れている。深刻な内容の本だがこの点に救いがあるような気もしている。

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