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2022-12-10

幕府海軍の興亡 金澤裕之著 慶應義塾大学出版会 2017年5月刊

幕府海軍の歴史を扱っている。視点は日本史というより軍事史からの研究だ。これまで幕府海軍について触れている著書は多数あるが、みな日本史からの視点であったように思う。

この本はそれらと違い、軍事史の観点から幕府海軍の動向を描いている。近代の軍事史からみた場合、船手(水軍)と海軍には大きな差異があるようだ。この本はその点に先ず着目し近代の海軍とそれ以前の海上勢力との違いを明確に意識して論じている。

ここまで省略すると間違いを含むのだろうが、近代以前の水軍と近代の海軍との違いは物資、人員の輸送も主な使命とするか否かであろうか。水軍の場合は平時には物資輸送を行なって収益を上げ、戦時には戦闘に参加する。近代海軍は純然とした軍事力なので、輸送による収益は任務とならない。この海軍がいかに日本に根付いていったか、を後づけている。

まだ徳川幕府が健在の頃の海軍論は、海軍論とは言ってもその中身は日本に以前からあった水軍の考え方の延長にあった。そのため運送も使命とする考えがあり、それを行うことによって海軍を根付かせようという動きもあった。

実際にオランダによる海軍伝習が終わった後からは、徐々に水軍(船手と呼ばれていた)が姿を消していっている。最終的には、幕末のギリギリになって幕府の海軍はヨーロッパ式の海軍の様相を帯びるのだが、その時には幕府海軍は終わりを告げてしまう。その経緯を描き出している著作とも言える。

従来の日本史からの海軍研究とは違う視点で軍事力としての海軍を中心に据えた意欲的な研究書である。分厚だが読みやすい著作だった。

当然のことだが、充実した参考文献リストもこの図書の魅力の一つだ。

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